アタシに釣られて、我の強さにお前が泣いた



「ねぇ、雅の望みは何?」
「何だ、藪から棒に」
「何でも一つだけ叶えて上げるわ。あなたが払うべき代償はたった一つ」
「お前が永遠に時空間で彷徨い続ける事だ」
「酷い!」
「好い加減、この手のネタはスルーすべきではないだろうか。我等の存在理由から考えて」
「いや、二年ぐらい前まで流行ってたじゃない。そう、クロスオーバー!」
「では前回、湊ちゃんの友人を出したのはNGではないか?」
「確かに。蹊ちゃんが湊ちゃんを『ほねーちゃん』って呼ぶのもNGっぽいわね」
「我等と蹊ちゃんと湊ちゃんしか出演しない辺りも、狭窄的に感じるな」
「うーん、でも今回のネタは余り人が多くても困るのよ」
「人を選ぶしな……」
「発想の根源が、アタシらの関係が特異点とイマジンぽいって事だしねぇ」
「どちらがどちらに憑依しているのだ」
「アタシが雅に?」
「だとしたら、豪く長い間憑依されている訳だ」
「逆だってそうじゃない」
「そう言えばそうだな」
「アタシに釣られてみる?」
「また突然だな」
「いや、キャラ的にアタシに近いかなって」
「ふむ、確かにな。詐欺師とはお前に相応しい」
「そーゆー雅はどーなのよ」
「いないな」
「えー、何かキンタロスっぽいわよ、アンタ」
「そうかも知れん。強さを求め、技を極めんとする方向性には、素直に同意しよう」
「うわ、何この自画自賛」
「只、我は物を壊して焦るような隙はないし、他人の求めている物と己のそれを混同したりはしない」
「確かにアンタ、殆ど動揺しないしね」
「うむ。そして我の強さは兄御前の為。兄御前の命、望み、全てを護る為に我の力はある」
「そしてアタシは、兄公の望みを叶えたい。――そっか、アタシがイマジンだ!」
「漸く解ったか。ならとっとと願いを叶えて来い。我の望みは兄御前の息災だ」
「アンタの望みは叶えないわ。何故なら、アタシが取り付きたいのは、望みを叶えたいと願うのは兄公だけだから!」
「やれやれ」

「と言う訳だから、練習に付き合ってよ鏡子ちゃん」
「何でわたしが!?」
「だって兄公の双子の妹でしょ。設定上」
「楽屋ネタは言わない!」
「それに最近、鏡子ちゃんの出番少ないし」
「あなた、いつか追放されるわよ」
「大丈夫、元から未公認だし!」
「その垣根も最早無意味なのだけど……はぁ」
「まぁまぁ、良いじゃない。人類最古のネオシスターの胸を借りたいのよ、後進として」
「それは構わないけれど――湊ちゃんの苦労が解るわ」
「済まぬな、鏡子ちゃん」
「ああ、雅ちゃん。気にしないで。どうせ暇だし」
「心中、察する。我等も似たような境遇だ」
「それで、わたしはどうすれば良いのかしら?」
「あなたの望みを言いなさい。どんな願いも一つだけ叶えてあげる。あなたが払うべき代償はたった一つ」
「望み?」
「うん。代償はねぇ、どうしよっか? 〆切延長?」
「それは幾らなんでも無理だろう。首を掻っ切って吊るされるのがオチだ」
「じゃあチョコちょーだい」
「安!」
「一回目だから出血大サービスよ。ささ、言っちゃって!」
「え、でも……いきなり、望みって言われても……」
「何でも良いのよ。兄公にキスしたいとか、兄公にキスされたいとか、兄公とキスし合いたいとか」
「ききききききききき!?」
「そーいえば、アタシらの望みって大体そんなんだよね。よぉーし、鏡子ちゃんと兄公をキスさせて上げるぞぉ。けってぇーい!」
「番組が違うぞ」
「ちょちょちょちょちょっと待って! そんなのないわ! 一方的よ! クーリングオフを要求するわ!」
「イマジンは一度結んだ契約を解約出来ませーん。ご了承下さい。うふ♥」
「うふ♥じゃないわよ! にいさんときききききききなんて、わたしは望んでないわ!」
「契約者は皆そう言うのよ。けれど、運命は非情、宿命は冷酷、結果は必然――嫌よ嫌よも好きのうち!」
「人の話を聞きなさ――きゃっ!?」
「はーい、ちょっと目隠ししててねー。今、兄公呼んで来るから」
「え、ちょっと、ねぇ、翼ちゃん!」
「きゃっ♥ 今回初めて名前呼ばれちゃった。鏡子ちゃん愛してるー♥」
「愛って――てか何でこの目隠し取れないのぉ!?」
「んじゃ、じっとして待っててね〜」

 え、そんな――本当ににいさんを呼んで来るの?
 そんなのダメよ。だって、わたしたちは兄妹で……
 にいさんの事、嫌いじゃないし……ううん、むしろその逆だけど……
 でも、だからって、こんな形で……
「おまたー♥」
「えっ」
 翼ちゃんの声が聞こえる。でも、やっぱり目隠しは取れない。
「良かった、電仮面取れてないみたいね」
「電仮面?」
「契約遂行の為のアイテム。巴ちゃん謹製よ」
「と、巴ちゃん……!」
 しばらく姿を見なかったと思ったら、こんな物を……!
「ささ、兄公。ぶちゅーっといっちゃって!」
「に、にいさん!?」
 本当に連れて来たの!? それに、翼ちゃんの言い方だと、何をするかももう解ってるみたい……
「にいさん、落ち着いて聞いて! 翼ちゃんの言ってる事は嘘なの! わたしはそんな事望んでないのよ!」
「素直じゃない子は嫌われちゃうわよん」
 嫌われても構わないわ! わたしは、こんな事望んでないの!
「――あっ」
 両肩を大きな手で掴まれる。にいさんの、手――
「ま、待って、にいさん……」
 真っ暗闇の中、にいさんの体温だけが感じられる。
「わたし……だから……」
 目隠しの向こうから、ゆっくりと近付いて来る、にいさんの顔を想像する。わたしの、目隠しされた顔をじっと見つめて、少し緊張した顔で――
「に、い……」
 もう、本当に、近くで……息も感じられる距離で、にいさんが囁く。
「鏡子ちゃん、かっわいー♥」
 ちゅっ。
「……え?」
 唇じゃない、頬に感じる、しっとりとした柔らかい感触。きっかり一秒で離れて行く、その唇から発せられた言葉は。
「はい、鏡子ちゃん。キャストオフっ」
「あ、ぅ……」
 目隠しが取られ、十数分ぶりの光に目が眩む。午後の陽光の中、至近距離で翼ちゃんが笑ってて。
「アタシに釣られちゃった?」
「………」
「ジャスト一分。夢は見れたかよ?」
「………」
「あれ? 鏡子ちゃーん?」
「………」
「え、えーと……」
「……つ」
「何か、嫌ーなよ・か・ん♥」
「つ、ば、さ、ちゃぁあああんんんん……?」
「こ、これにて契約完了! それではごきげんよう!」
「待・ち・な・さああああああい!」

「何か、こんなオチ、前にも見た事あるよーな気がするわ」
「過去に飛んで確かめてみるか?」
「ううん、遠慮しておく。けれど、イマジン契約は諦めないわ! 兄公の望みを叶えるまで、アタシの巡業は終わらない!」
「どれだけの友がその犠牲になるのだろうな……」

続く?


Index