Sweet good night



 ――兄御前、もう……眠ったか?
 ……何だ。もう眠って仕舞ったのか。案外寝付が良いのだな。
 併し、真逆同じ部屋で寝るとは思わなかったな。翼の奴、余計な知恵ばかり回るようになって……いや、こう思う事自体、翼の思う壺、か。
 ……併し、こうして思い切り眠られると言うのも、少々心外だな。妹とは言え、一人の女子が同じ部屋に居ると言うのに――女として見られていないのか、妹として信頼されているのか、判断に苦しむ所ではあるな。
 だが、こう言うのも良いな。こうして、久しく見ていなかった兄御前の寝顔が見られたのだから。――ああ、穏やかな寝顔だ。とても、安らげる。正しく、翼に感謝だな。
 兄御前、今、夢を見ているか? 見ているのなら、どんな夢を見ている?
 怒れる夢か? 悲しい夢か? 若しそうなら、教えてくれ。兄御前を苦しめる夢など、我が斬り捨てて仕舞おう。流石に精神を断ち切る術は持ち合わせていないが、目覚めても心穏やかでない貴方を抱き締める事ぐらいなら出来る。貴方を苦しみから救う為なら、我は何でもしよう。
 それとも、喜ばしい夢か? 楽しい夢か? 若しそうなら――我は、その夢に出ているか? 夢の中の我は、貴方を喜ばせる事が出来ているだろうか? 楽しませる事が出来ているだろうか?
 ――ふぅ。全く、我は何を言っているのだろうな。我がすると決めたのは、護る事だと言うのに――
 そうだな。どうせ眠っているんだ。夢現に愚痴でも聞いてくれ。臆病な騎士の、戯言を……。
 兄御前。我は時折、不安になるんだ。貴方を辛苦から護る事だけが、我に出来る唯一の事だと信じ、誓って、鍛えても……不安に駆られる時が、あるんだ。
 我は、貴方を護れているか――その証が欲しいのかも知れないな。そんな物、求める事自体が馬鹿馬鹿しい愚行だとは解っているんだが。
 だが――こうして、貴方の寝顔を見ていると、その不安が和らぐような気がする。そうだな、我の求めている物が証だとして――貴方の、その寝顔こそが、証なのかもしれない。
 だとしたら、翼の姦計も矢張り悪くはなかったと言う事だな。ふふ――今夜は、感謝の念が尽きんよ。
 さあ、それでは、そろそろ寝るとしようか。明日も早い。きっと、翼が無茶をする事だろうからな。
 御休み、兄御前。叶うなら、我の夢に貴方が出でん事を――
Index