誕生日は大牢滋味



 あのね、今日学校に行ったら、同じクラスの天音ちゃんや栞ちゃんがこみのところに来て、おっきな包みをくれたの。
「蹊ちゃん、誕生日おめでとう!」
「ハッピーバースデー!」
「わぁ、ありがとー!」
 みんながくれたのは、おっきなおっきな鮭のぬいぐるみ。
 何で鮭なのかなぁ、って思ったけど、もらったときは嬉しくて、聞くの忘れちゃった。
 どうして、みんながぬいぐるみをくれたのか、それはね――


 今日は1月14日! そう、知る人ぞ知る、こみの誕生日なんだよっ。

 こみが生まれて何年になるのかなぁ――なんて、ひ・み・つ!
 あのね、女の子は気軽に何才か教えちゃダメなんだって。だから、こみが何才になるかは、国家機密!
 でも、こみのこと知ってる人は、みぃーんな知ってるよね。あははっ♥
 それにこみ、自己紹介するとき、つい何才かも言っちゃうの。
 うーん、秘密を持つって難しいね。剣呑剣呑っ。

 それで、こみ毎年思うんだ。なんで1月生まれなのかなぁって。
 だってね――こみ、家族からプレゼントもらえないんだよ?
 パパもママも、「もうお年玉をあげたからダメ」って言うんだよ!? 蝶理不尽だよね!? ぶー!
 同じクラスの傷無ちゃんも1月生まれで、しかもこみより6日も早いのにもらってるんだって!
 諸行無常とはこのことだよー……盛者必衰とも言うよね……違うかもしれないけど。
 あーあ、ほばーちゃんはくれたのになぁ。でも、ほばーちゃんはもういないから――

 だから、今こみにプレゼントくれるのは、ほにーちゃんしかいないの。
 ほにーちゃんだけが、家族の中で一人だけ、こみにプレゼントをくれる人。
 去年もらったのは、魔法使いの杖のおもちゃ――振り回して遊んでたら、折っちゃったけど。
 一昨年もらったのは、べろがびろーん、って長ーいタヌキのぬいぐるみ。これはちゃんと取ってあるよ。えっへん!
 その前が本を入れられる専用のリュックで――
 こみが一番最初にほにーちゃんにもらったプレゼントは、こみの大事な四字熟語の辞典なんだ♥

 こみの四字熟語の辞典は、いつもこみと一緒なの。
 きっかけは――何だったかな?
 こみがまだちっちゃかったときに、アニメかマンガを見てて『相思相愛』って言葉が出てきたの。
 その意味がわからなくて、ほにーちゃんに聞いてみたら、
「好きな人同士が、お互いに好きって思うことだよ」って、ほにーちゃんの四字熟語の辞典を見ながら教えてくれたの。
 そのとき、こみには、その辞典がまるで魔法の本みたいに見えたんだよ。
 四つのむつかしい漢字で書かれた、とっても不思議な言葉。
 たった四つの字なのに、たくさんの意味を持った四字熟語って、こみには魔法の呪文に思えた――
 だからこみ、ほにーちゃんにおねだりしたの。「その本ちょーだい」って。
 そしたらほにーちゃんは、少し困った顔になって、
「これは僕のだからあげられないけど、こみの誕生日のときに、ぴっかぴかの辞典を買ってあげるよ」って言ってくれたの♥
 こみ、とってもうれしくて、思わずほにーちゃんに抱きついちゃった。
 だってね、その日は――ほにーちゃんも気づいてなかったみたいだったんだけど――こみの誕生日の二日前だったんだもん♥

 三日後の誕生日に、ほにーちゃんからもらった辞典は、今でもこみの傍にあるの。
 学校に行くときも、みんなで遊びに行くときも、駄菓子屋のおばーちゃんに会いに行くときも、ずーっと一緒。
 こみとほにーちゃんは離れ離れに暮らしてるから、こみにとってはほにーちゃんの代わりみたいなものかな。
 わかんない四字熟語が出てきたときとかに辞典を開くと、まるでほにーちゃんが傍にいて教えてくれてる気分になるの――

「たっだいまー♥」
 学校が終わってすぐにおうちに帰ると、家の中にとっても美味しそうな匂いがふわーん、としてました。
 うん♥ この匂いは、こみのダイスキなハンバーグ!――の、“素”の匂い。でも、いつもとちょっと違う感じ。
 こみのうちでは、月に一度ハンバーグを作ります。何故なら、こみがダイスキだから!
 いつもは手軽に作れちゃうハンバーグの素を使うんだけど、こみの誕生日や、こみがテストで90点以上とったときは、ちゃーんと食パンを千切ったりして作ってくれるの♥ もう完全無欠に、こっちのハンバーグのほうが珍味佳肴なんだから、蝶オススメ!
「ママー、ただいまー」
 ランドセルを階段の一番下の段においてお台所に行くと、ママがハンバーグの素をハンバーグの形にしてました。
「ママ、こみのおっきくね! 無辺広大にね!」
「そんなに食べれないでしょ」
「いーの! 気宇壮大に!」
「はいはい」
 ママは仕方ないわね、って顔で頷きました。でも、いっぱい食べなきゃ大きくなれないんだもん!
 こみが大きくなれなかったらママのせいだから!

 そのあとは、ずっとそわそわしてました。
 お部屋で算数の宿題やってても、むつかしくってわかんなくってマンガを読んでても、何だか落ち着かなかったの。
 マンガも宿題もぽーんって放り出して、一階のキッチンをぐるぐる回って、ケーキの箱――こみ、生クリームたっぷりの苺のケーキが好きなんだけど――をのぞこうとして怒られて、テーブルの上を布巾でふいて、フォークを並べて、コップを出して――
 ――でも、ぜんぜんそのことが頭から離れなかったの。
 だって――ほにーちゃんが、まだ来てなかったから。
 もうハンバーグがフライパンの上でジュージューいってるのに、ぜんぜんほにーちゃんが来なくて、こみ、不安になっちゃったんだよ。
 一階に来たのも、ほにーちゃんが来たことがわかるよーに、だし。
 でも――来ないの。
 それでね、ずっとガマンしてたんだけど――前に、「ほにーちゃんはまだ?」ってママに聞いちゃいけないってお約束したから――、ママに聞いちゃったの。
「ほにーちゃんはまだ?」
 って。
 そうしたらママ、ちょっと困った顔になって、「お兄ちゃんはちょっと遅れるから、ご飯は一緒に食べられないのよ」って――

 こみ、思わず外に飛び出してた。

 外はもう真っ暗で、すごく寒くなってた。
 こみ、慌てて飛び出してきたから、上着も着てこなくて、トレーナーの襟や袖から冷たい風がどんどん入ってきた。
 でも、こみはほにーちゃんの家にむかって走り続けました。
 こみの誕生日は、ほにーちゃんがいないといけないの。
 ずっと、ずっと、誕生日はほにーちゃんとずっと一緒だったから。
 ほにーちゃんとハンバーグ食べて、ほにーちゃんに“ハッピーバースデー”を歌ってもらって、ほにーちゃんと一緒にケーキを食べて、ほにーちゃんにプレゼントをもらって、ほにーちゃんと夜の12時まで起きてるの。
 なのに、ほにーちゃんとハンバーグが食べれないなんて――そんなの、誕生日じゃないもん!

 ずっと、ずっと走り続けて――でも、こみ、途中から走れなくなってた。
 手がすっごく冷たくて、ほっぺもすごく冷たくて、はーって息を吐いてあっためたけど、ぜんぜんあったかくならなかったの。
 それに、足がすごく疲れちゃって、もう一歩も走れなくて、それでもちょっとずつ歩き続けて、そのとき――

「あっ――」

 って思ったときはもう遅くて、まっくらな地面が近づいてきて、転んだって思って目を閉じたの。
 でも、いたいのはずっと来なくて、その代わりに、ずっと聞きたい声が聞こえてきて――

「大丈夫か、蹊」

 転びそうになったこみを助けてくれたのは、ほにーちゃんでした。
 ほにーちゃんは、こみがここにいるなんて信じられないって顔でこみを見てて、こみ、その顔を見てたら何だかすっごくノドがきゅーってなって――

「ほにーちゃぁぁあん!」

 ――って、泣いちゃった。

 ほにーちゃんは泣いてるこみの頭をずっといい子いい子してくれてた。
 こみが泣き止んでくると、ほにーちゃんは「蹊のために、早くに用事を済ませて走ってきたんだよ」って教えてくれました。
「さあ、帰ろう。お母さんのハンバーグが待ってるよ」
「――うん!」

 そのあと、こみはほにーちゃんに肩車をしてもらって、おうちに帰りました。
 ママには怒られちゃったけど、ちゃんとハンバーグも食べられたし、万事解決だよね。
 あ、ほにーちゃんのぶんのハンバーグはつくってなかったから、こみのハンバーグを半分あげました。
 ほにーちゃんと半分こしたハンバーグは、いつものスペシャルハンバーグより、ずっと美味しかったです♥


"My only presenter is My only brother"closed.

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