帰りの道で延頸鶴望



延頸鶴望(えんけいかくぼう)
 首を鶴のように長く伸ばして相手を待ち望むさま。切実に待望する気持ち。今か今かと待つ意。


 あーあ、ほにーちゃんはやく来ないかなー。
 こんなにこみが待ってあげてるのに、ぜぇんぜん来ないんだから! ほにーちゃんの遅疑逡巡!


 こみのほにーちゃんは世界で一番こみが好きなひと。
 なにせ、ほにーちゃんとこみは、相思相愛なんだから!
 ほにーちゃんにもらった、大切な四字熟語辞典には、こう書いてあるの。
 ――たがいにしたい合い、愛し合うこと……って♥
 こみはほにーちゃんが大好きで、ほにーちゃんもこみが大好き!
 だからこみとほにーちゃんは、相思相愛なんだ。
 これ、こみが世界で、一番好きなことば!

 でも、なんでかは知らないけど、こみとほにーちゃんは離れ離れでくらしてるの。
 こみが今よりちっちゃいときは一緒だったんだけど、こみが今よりちっちゃいときよりちょっと大きくなったときに、ほにーちゃんとこみは別々にくらすようになったの。
 こみは、ほにーちゃんと離れたくなかったけど、でも、こみはちっちゃかったから、どうしようもなかった。
 けど代わりに、こみとほにーちゃんが会える日があるの。それが『お兄ちゃんの日』!
 この日だけ、こみとほにーちゃんは、一緒に遊んでてもおこられないんだよ。

 でーも、それだけじゃぜんぜん足りないの。
 だって、ほにーちゃんと遊んでると、あっという間に一日が終わって、もう帰る時間になっちゃう。一日片時ってやつかな。
 だからこみは、こうして『お兄ちゃんの日』じゃないときも、ほにーちゃんに会いにきちゃいます。
『お兄ちゃんの日』以外にほにーちゃんに会うとおこられるから、まさに乾坤一擲って感じ。
 でも、少しぐらいならいいよね?
 なんたって、こみとほにーちゃんは兄妹で、相思相愛なんだから!


 というわけで、こみは今、ほにーちゃんの学校の帰り道でまちぶせしています。
 こみのほうが学校がはやく終わるから、こみから迎えにいっちゃうの♥
 でも、前にほにーちゃんの学校に入っていったら、ほうきを持ったおじいさんに「入っちゃダメだよ」って言われたの。
 えー、なんでー? こみは、ほにーちゃんの妹だから、ほにーちゃんのそばにいてもいいんじゃないの?
 こみがそう言ったら、おじいさんはこう言ったの。
「お嬢ちゃんのお兄ちゃんは、一生懸命勉強してるから、邪魔しちゃいけないんだよ」
 こみがほにーちゃんのジャマになるなんて、そんなことないもん!
 ――って思ったけど、よくかんがえたら、こみも勉強してるときにほにーちゃんが来たりすると、ほにーちゃんのことで頭がいっぱいになっちゃって、それで勉強できなくなっちゃうときもあるから、しかたないかな、って思ったの。
 あ、でも――
 こみがそうなっちゃうってことは、ほにーちゃんもこみに会うと、こみの事しか考えられなくなっちゃうのかな?
 えへへ♥ だったらうれしいなぁ♥

 むー。それにしても、ほにーちゃん遅いなぁ。
 もしこみが透明人間になれたら、ほにーちゃんのいる教室までいっちゃうんだけどなぁ。
 ほにーちゃんの学校の中ってどんな感じなのかな? 門の外から見たことはあるけど、中に入ったことはないんだよね。
 教室はこみの学校と同じくらい? それとももっと大きい?
 お昼ごはんはお弁当って言ってたから、こみとはちがうね。
 運動場はとってもひろかったなぁ。もう、こみの学校と比べると、無辺広大って感じ。
 むむー……なんか、気になってきたよぉ。


 というわけで、こみは今、ほにーちゃんの学校の門の前にいます。
 なんだかこみの学校の門より大きく見える……
 ううん! ダメダメ! そんなに弱気になっちゃ。
 こみはこれから、ほにーちゃんの学校に侵入するんだから、もっと強気でいかないとシッパイしちゃうよ。
 んーと、ほうきのおじいさんはいないかな? そーっと覗いて……

「あれ? 蹊?」

 あー! ほにーちゃん!
 門の影から顔を出したこみを発見したのは、なんとほにーちゃんだったの。
「あ、えーと、あのね……」
 えーん、どうしよう……こみ、おこられちゃうかなぁ……
 でも、ほにーちゃんはこみの近くまで来ると、こみの頭をなでてくれて、「迎えに来てくれたのかい?」って言ったの。
 こみ、うんうんって首を思いっきりこくこくさせて、ほにーちゃんに抱きついちゃった。
「ほにーちゃん、こみ、ほにーちゃんと一緒に帰っていい?」
 

"Waiting for you" closed.

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