|
「俺、参上!」
「いえ、最初からそこにいますけど」
「湊様ー、ノリが悪いですよー」
「ご、ごめんなさい」
「湊様が謝る必要などありません。伊佐美、余り湊さまを困らせないで」
「清海ちゃんは固いなぁ」
「清海さん、私も気にしてませんから。ところで、何のお話ですか?」
「電王ですよ、電王」
「でんおー?」
「あ、見てないんですね。それじゃ、れっつ視聴!」
30分経過――
「どうです、面白かったでしょう?」
「ええ。でも、これは子どもが見るものなんじゃないですか?」
「そうですね」
「ちっちっ、二人とも大甘ですよ。今や仮面ライダーは親子二世代は愚か、総ての人に受け入れられるヒーローですから。家兄さまも観てますよ」
「そうなんですか?」
「出鱈目を言わないの。大体、あの男が観ているからと言って、それが湊様に何の関係があるの」
「兄妹共通の話題があれば、関係も親密になりますよー」
「……本当ですか?」
「み、湊様……」
「本当も本当。それに、あの年頃の男性が口にするには少し恥ずかしい話題ですからねー。近くに、それも兄妹に同好の士がいるとなれば、きっと喜ばれますー」
「家兄さまが……」
「湊様、騙されないで下さい! これは伊佐美の罠です!」
「罠じゃないよー」
「伊佐美さん、もう一度ビデオを見せて貰えますか?」
「あいあいさー!」
「湊様ぁ……」
30分経過――
「湊様、何かご感想は?」
「そうですね。……あの、赤い鬼が、男の方に取り憑いた、のですよね?」
「そうですよー。因みに男の人は、野上良太郎さんで、主人公さんですよー」
「その後、男の方――野上さんの髪と瞳が赤くなって、粗暴な振る舞いをするようになったのは、赤い鬼の仕業なんですね」
「その通り! 流石、湊様は聡明ですー。清海ちゃんと違って、理解力がありますー」
「誰が理解力がないの。私は只、この手の子供向けのドラマに興味がないだけよ」
「三好家家訓、主を守る為、ありとあらゆる知識を身に付けよー」
「そんなのないし、第一必要ないでしょう」
「ところで湊様、何か面白いと思った事はありますか?」
「ええ。――野上さんが、何度も痛い目にあっているのに余りへこたれていない事や、取り憑いた赤い鬼が不良の方々を傷付けようとするのを必死に止めるなど、なかなか良い方だと思いました」
「良い所に目を付けましたね、湊様。一見気弱な性格の野上さんの隠れた強さを、たった二回で見つけるなんて」
「ありがとうございます」
「それでは、今度は特撮部分やバトルパートに集中して観てみましょう」
30分経過――
「只今戻りましたー。あ、丁度終わりましたね」
「伊佐美さん、突然席を立たれて、どうしたんですか?」
「ふっふっふ、これを取って来たんですよぉ」
「それは――テレビで電王が付けていたベルトじゃないですか」
「ちょっと伊佐美、それどうしたのよ」
「取り寄せましたー」
「取り寄せたって――さっきCMで、発売は二月って出てたじゃない」
「ふふ、何だかんだ言って、清海ちゃんも見てるじゃないー」
「ひ、暇だから見てただけよ。それより、質問に答えなさい」
「ハイパークロックアップで買って来ましたー」
「ハイパー……何?」
「気にしないで下さい。それよりほらほら、付けて見て下さいよ、湊様」
「えっ?」
「ちょっと伊佐美、何考えてるのよ!」
「えー、ダメですかぁ?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「面白いのに……じゃあ、清美ちゃんが付けてー」
「お断りよ!」
「じゃあ私が付けますよ? その後、家兄さまに貸します」
「……えっ?」
「男の方は、幾つになってもヒーローに変身したいものですからね。世の中には、大人用変身ベルトの玩具があるぐらいですからね」
「…………」
「誰よりも早く、最新のヒーローに変身出来るとなれば、家兄さまもお喜びになるでしょーねー」
「………ま」
「では早速付けてみますねー」
「あのっ」
「何ですか、湊様」
「あ、その、えっと――わ、私、その、それを、えと、ベルトを、その……」
「貸して欲しい?」
「………(こくっ)」
「はい、どうぞ。付けて上げますねー」
「湊様ぁ!?」
「えっ、あ、えっ?」
「もー、清海ちゃんは黙っててー」
「ああっ!?」
「き、清海さん、顔が……」
「あっ――し、失礼致しました!」
「今のうちに、えいっ」
ガチャッ
「あっ」
「湊様、腰細いですねー。二つ余らせても余裕ありますもん」
「そ、そうですか?」
「はい、毎日鍛えてるだけありますねー。それじゃ、スイッチオン」
パラメラポレポレプー
「きゃっ」
「電源入れただけですよー。次は、このパスを持って下さい」
「えっと、これをベルトの前に通すんですか?」
「はい。それじゃ、CMを流すので、ポーズを覚えてみて下さいねー」
「は、はい」
CM視聴中
「えっと、最初はこんな感じですか?」
「んーと、もうちょっと右手を上げて――そうそう、そんな感じです」
「それで、右手を――」
「あ、待って下さい。ボタンを押してませんでした」
ジュオォン
「さあ、これで準備OKです。『変身!』と叫んで、パスを翳して下さい」
「い、言わなきゃダメですか?」
「ダメです」
「湊様! 今ならまだ引き返せます! 伊佐美の姦計にぐふ」
「さあ、今こそ兄妹の絆をクライマックスまで強める時! 時刻を越えるんですー!」
「は、はい――へ、変身っ」
「お嬢様、家兄さまが――」
《SWORD FORM!》
「……………はい?」
「あ、チャンさーん。それに家兄さまもー」
「……………」
「あ、えーと……」
「……………」
「……お邪魔、だったかな」
「それから三日間、湊様はお部屋から出られなかったそうですー」
「あんたのせいでしょうが、あんたの!」
「なお、この物語はフィクションである可能性もあるので、実際の人物に『電王好き?』と聞くと、真っ赤な顔をして首を横に振りまくる、可愛い仕草が見られる事請け合いですー」
「あんたって子はー!」
Index
|